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「あんさんらみたいな役者顔さんなら、みんな目で追うてしまいますわ。っふふ。」
「…ですって。」
悠はそう言ってしれっとして冷たい視線を俺に向ける。
「バカやろう、お前だけには言われたくねーよ。」
「っふふ、お二人ともそこらでは見つけられへんほど綺麗なお顔ですえ。」
「そりゃどうも。それじゃ失礼する。」
そう言って足早に店を出た。
「あれ、ご機嫌斜めですか?褒められたのに?」
「生まれつきこの顔なんでね。」
「褒められるのにも飽きました?」
「顔なんて褒められてどうすんだ。」
そう言って悠を見ると、あいつは空を見上げた。
「顔って変わるものですよ。性格ってどんどん外見にも出てくるんです。生まれつきのお顔からずっと変わっておられないってことは、生まれたときも今も、土方さんのお心は変わらず綺麗なんですね。」
そう言って俺を見て、笑う。
本当にどんな場所で育ったらこんな太陽みたいな性格したやつになれんだろうと思った。
すぐに屯所に帰って、平助や斉藤に悠を返してやるのが、少し惜しかった。
「悠、今からどっか行きたい所あるか。今日は月が怖えくらい綺麗だ、真っ直ぐ帰んのは勿体無え。」
こんな適当な理由でも、嬉しそうに返してくれる。
「月が綺麗な日に行きたい場所があるんです。近所の子供に聞いたんですけど、春がくる前に狂い咲きする桜が一本だけあるそうで、あの子たちいつ見たのか知りませんけど、夜桜で見るのが一番素敵なんですって。」
確かに女にしとくには勿体無い奴だった。
剣に根性に本能に、何をとっても力以外はその辺の男では遠く及ばないものを持っている。
しかし女にしておいてやりたかったと思うことも絶えなかった。
「それで…って土方さん?聞いてます?」
「悪い、なんだ。」
「もう結構です。」
そう言って拗ねるくせに、「もしかしてお疲れですか?」なんて気遣いが出来る。
そういった細かい魅力に、総司なんかはとっくに気付いてたんだろう。
「大丈夫だ。それよりお前、斉藤に女だってバレたんだろ。大丈夫なのか。」
「バレたのが斉藤さんでよかったって思ってるくらいです。」
「斉藤…か。あいつは腕も立つ。お前と一緒で、これからの俺達に必要不可欠な奴になるぜ。」
「土方さんがそういうんなら絶対ですね。」
そういって笑う悠の横で見た夜桜は、今まで見た桜の中で一番綺麗だと思った。
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