上洛

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清河が寝返ってから2日後の夜、私は土方さんに呼ばれた。 「清河が、浪士隊を連れて鎖国の為に横浜まで下るらしい。」 「な…!?何もしないまま京を去ると言うこと…ですか?」 「あぁ、元々寝返る気だったんだろ、京で将軍様の為に…だなんて考えちゃいねえさ。」 「そうか、そりゃそうか、そうですよね。」 私の人生を大きく変えることとなる誘いは、暫くの沈黙の後だった。 「俺らな、水戸天狗党の芹沢さんって人たちのグループとさ、一緒に京に残ろうと思ってんだよ。」 「え…?京に、ですか?」 「あぁ。何とか幕府側に掛け合おうと思ってる。で、そこでだ!」 「何ですか?」 「お前も一緒に京に残らねえか?」 「…え、ええ!?自分ですか!?」 「何だ、断るつもりか?いや、てめぇは元々佐幕思想な筈だ、断る訳ねぇだろ?」 「いや、そりゃまぁ…、って、あれ、佐幕思想だなんて言いましたっけ?」 「清河が寝返ったとき、お前も驚いた顔してたじゃねぇか。っつーことは清河の話の意味が解ってるってことだ。元々の浪士隊の方向性を考えりゃ、お前の思想なんて想像付くに決まってんだろーが。」 あぁ、試衛館の人たちって、やっぱりただ者じゃない人たちだったと、初めて心の底から思ったのはこの時だった。 この自信満々な態度も、あの衝撃の中でも周りを観察して、思考回路を回していた事実も、試衛館がイモ道場なんかじゃないこと私に証明している気がした。 その姿に、その志に、本物の武士を見た気がした。 「自分で良ければ、付いて行かせて下さい!」 「よし、いい返事だ!変に上手に出ねえ所が、お前の生まれの良さを嫌ってほど表してんな。」 「え、す、すみません!」 私が咄嗟に謝ると、土方さんは少し笑った。 「バーカ、褒めてんだよ。俺らん中にはお前みたいの居ねぇからな。ちゃんと対応できる奴は、これから先絶対重宝するぜ。」 そう言って土方さんは歩き出した。 「いやいやいや、お偉方に掛け合えとか言われたって出来ませんよ、絶対無理ですよ?」 「そこをやって貰わなきゃ困る!」 少し後ろを振り返って笑っていた土方さんは、思わず声にしてしまいそうなくらいに、綺麗で、かっこよかった。
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