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「…よ、よろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。」
私の力試し、という名目で、月明かりが当たる庭で木刀を持って沖田さんと一戦交えることになった。
とてつもなく楽しそうに木刀を構える沖田さんに向かって、私も木刀を構える。
久しぶりの全力の勝負に、少しゾクゾクした。
息を吸って、腹を括る。
得意の下段の構えから、地を蹴る。
真正面から右、左と打ち込み、すぐ体を捻って沖田さんの横に回り込み、下から上に斬りかかる。
相手が沖田さんじゃなければ、きっと体に当てることは出来ただろうと思う。
沖田さんの剣術、勘の鋭さは、既にこの時から並大抵のものじゃなかった。
でもすごく満足そうに、私の斬り上げを受け止めてくれた。
一歩下がって間を取った次の瞬間、沖田さんの剣が私を襲う。
一撃一撃がすごく重くて、受けるのも必死だった。
木刀なのに、少し気を抜けば命が無くなる気がするほどに、凄かった。
なんとか全て受けきったと思った次の瞬間、今まで見た中でぶっちぎりに速い突きがお腹めがけて飛んできた。
我ながらよく反応したと思う。
とっさに体を仰け反らせながら自ら体勢を崩して、地面に手をついた。
でも、次の瞬間に飛んできた斬撃は避けるだけで精一杯だった。必死に立ち上がり、剣を構える。構えた瞬間、沖田さんが踏み込んできた。
するとすぐに「もういいだろう、トシ。」と、聞き覚えのない声が響く。
その声を合図に沖田さんは、私の目の前で剣を止める。
あんなに勢い良く踏み込んで止まるのが不思議だった。
「あぁ、十分だろ。満足したか、総司。」
「はい、すっごく!悠ちゃん、僕の三段突きを避けて体勢立て直したの、君が初めてだよ。」
と、満面の笑みで褒めてくれた。
私はその言葉で初めて、沖田さんがあの瞬間3回も突きを出していたことに気付いた。
己の未熟さを思い知ることとなったと同時に、上には上が居ることも嫌と言うほどに感じた瞬間だった。
「彼女が千代悠か…うむ!確かに、お前たちの目に間違いはないようだな!」
はっはっは!と豪快に笑うこの人こそが、後の新選組局長となる男だった。
「俺は近藤勇!話は皆から聞いている、これからよろしくな、千代くん!」
そう言って笑う近藤さんと、隣で同じように挨拶してくれた優しそうな印象の井上源三郎さんに「…はい!こちらこそよろしくお願いします!」と、私は頭を下げたのだ。
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