消えた灯火

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 夢と希望の舞台に黒い霧が立ち込めた。百年に一度の大不況はプロ野球界をも大きく揺がしたのだ。  親会社の不振による戦力格差が明確となり、選手・指導者共に一線級を総取りした名門球団の栄誉無きV9は他球団に取っては絶望のスパイラルとなって長いリーグ戦の質と人気を劣化させる結果を招く。  腐敗した球界に遂には八百長・野球賭博の嫌疑が掛けられ 、プロ野球そのものの存在意義が問われるまでになってしまった。 そんなお暗い野球界にも光明が一筋。  生え抜きにして努力家。近年、低迷していた元名門をたった一人でのし上げたサウスポーの大エース。 【早乙女 望(さおとめ のぞむ)】  彼のその思わず息を呑んでしまう程の豪腕と、ひたむきに野球へ取り組む姿勢は往年の野球ファンの目を覆っていた曇りを取り払った。  路肩の銀杏も微かに色付き始めた九月始めのスタジアムは十数年ぶりの優勝を目指すチームのファンでいつしかぶりに埋め尽くされる。  その中心に、早乙女は立っていた。
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