消えた灯火

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 鋭いスパイクの歯がマウンドに盛られた砂の山を蹴り上げる。足場を固めた山中がおもむろに投球練習をする様子を、バッターボックスの早乙女も観察していた。 (やはり下が弱いな)  山中のゴボウのように脆弱な足腰を見て、早乙女はこの男の現状での実力の限界を悟る。 (案の定、どの球もうわずっている。あのフォームでここまでの速球を投げられるのは大したものだが、どちらにしても打つには容易いな)  投球練習が終わるのを見て、早乙女は再びバットを上段に構える。 「プレイ!!」  審判の甲高いコールで、球場に熱気が戻った。  数秒の間を置いてワインドアップからの投球、大きくて窮屈なオーバースローから放たれた一球目は外側に大きく外れ、キャッチャーのミットを弾いた。山中の本気の速球は、思った以上にシュート回転している。 (変化球は何を投げるか分からないが、ストレート一本に絞って、甘く入った真ん中の球を叩けばまず間違えは無いだろう)  早乙女は半歩分、インコース寄りに立ち位置を変える。  しかし山中は一転、クイックを利かせた早いフォームから二球目を投じてくる。ブレーキの効いたカーブボールに早乙女はスイングを崩された。  これでワンエンドワン。
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