消えた灯火

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 仕切り直しの三球目。早乙女はバットを上段に掲げるいつものルーティンをこなすと、ぐっと内側に構えた。  どうしても欲しい次の一点を取るために、低迷期も応援してくれたファンに喜んで貰うために、弱気になる訳にはいかなかった。  ピッチャー心理として右対左で打者がインコースに立っていれば、食い込んでくる変化球は投げづらい。経験が浅く、制球も定まらない投手なら尚更。自信はあった。 (外角のストレート、そこを確実に叩く!!)  ピッチャーがゆっくり投球動作に入る。ワインドアップから大きく足を上げ、右腕を弓の様に後ろに引く。その右手に握られたボールの握りがストレートであるのが早乙女にははっきり見えた。 (もらった!!)  そう確信した早乙女は右足を思いっきりベース寄りに踏み込んでスイングの動作に入る。 そのときだった。  山中は踏み出していた右足を一転、早乙女の方へ向け、明らかにボークの投球動作のままに右腕を振り下ろしたのだ。  早乙女は慌てて体を反らせ避けようとしたが、手遅れであった。それも運悪く、咄嗟の動作でヘルメットがずれた早乙女のこめかみ部分にボールが直撃してしまった。 球場全体が一瞬にして静まりかえる。  
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