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「で…デッドボール!! ピッチャー、危険球退場!!」
審判の大声のコールと退場のジェスチャー。倒れ込む早乙女。
この信じがたい光景は、スタンドのファンを暴徒化させるに十分たる凄惨なものであった。
「あの野郎、わざと当てやがった!!」
「殺してやる!!」
バケツの水をひっくり返した様にグラウンドになだれ込む観客と、それを必死に制止する警備員。
山中は首脳陣に囲まれながらダッグアウトに引き上げていく。帽子を深く被りうつむいていた山中であったが、チラリと見える表情は引きつった笑みを覗かせていた。
「早乙女、気付いてくれ!! 頼む。目を開けてくれ!!」
監督の必死の呼びかけにも、早乙女は一切反応しない。
「直ちに応急処置を。担架はその後です!!」
チームドクターの慌てふためいた大声の先から救急車のサイレンの音が近づいてくる。
突如として惨劇の場と化したスタジアム。そのガランとしたスタンドで呆然とグラウンドを見つめる少女。その小さな手から、握られていたお守りがこぼれ落ちた。
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