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春の終わりの夜だった。
雨が、激しく降っていた。
木々の間を縫うように闇の中を走る。
頬にあたる雨粒が痛いほどだった。
森の中は雨の音に支配されていて、いつもなら聞こえる獣の声はなかった。
巣穴の中や岩影で、この雨をやり過ごしているのだ。
こんな雨の中をひたすら走っているのは、人くらいなものだと彼女は、ふと思った。
「おい、こっちだ。」
男の声がした。
姿は見えないが気配は、ある。
彼女は声の方向に足を速めた。
走り抜ける二人の速さは尋常ではない。
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