雨夜

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逃げるには雨の夜がよい、と男は言った。 雨が音や匂いを消してくれると。 手筈通りに夜半に小屋を抜け出したのだが、やはり追っ手はついて来たようだ。 「およう。急げ。」 男が短く鋭く言った。 ずいぶん前を走っているのに激しい雨音の最中、不思議な事にまるで耳元で声がする。 およう、と呼ばれた彼女は声は出さず小さく頷くと更に速度をあげた。 向かう先は、黒々とした闇がひろがっている。 まるで闇の中に落ち込んで行くようだと、おようは思った。 不思議と恐怖はなかった。
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