再開の味

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晴れ渡った青空。 世界は不平等だ。 いや、別に嫌な事があったわけじゃないけれど。 でもこの世は悪に溢れてる。 とりわけ犯罪にあった事なんてないけれど。 けれど、どこかで非日常的な何かに憧れている。 毎日は楽しくて別にそんなのいらないけれど。 地平線まで続く花畑のど真ん中に、俺と彼女は立っていた。 『大切な人がいなくなっても、生きてる意味はあるの?』 白いワンピースを身につけたショートカットの彼女は、首を捻りながら俺に問い掛けてきた。 『そんな人生なんて、死ぬまでの悪あがきじゃない』 『そんな生き方じゃ、楽しくないだろ』 『何で?』 一陣の風が吹く。 ふわりと、彼女のワンピースが舞い上がった。 まだ幼さを残した少女は、真っすぐと俺を見つめている。 『そりゃあ、別れも含めて嫌な事とか気に食わない事だっていっぱいあるよ。だけど、死んだら未来に待ってるたくさんの』 『うるさいハゲ』 『え』 少女は駆け出した。 俺も慌てて後を追おうと走り出したが、足が縺れて勢いよく花畑に倒れ込む。 ここら辺で目が覚めた。 「やーっと起きたわね、あんた」 「……へ?」 「もうすぐ着くわよ」 普段と変わらない様子の姉貴。 車の窓の外には、夢の中と同じ晴天の空。 「あんたうなされてたわよ?」 「……そう」 何故あんな夢を見たのかは分からない。 引っ越しという馴れない事のせいで、少し疲れてしまったのかもしれない。 「ほら、あそこ」 助手席に座った母さんが、フロントガラス越しに前方にある新しい家を指差す。 正直、住宅街だからどの家を指差しているのかあまり分からない。 しかし目的の家が近付くにつれて、俺もどの家なのかが分かってきた。 「へぇ、綺麗な家ね」 車が止まると、誰よりも早く姉貴が車から降りた。 俺は車で寝た時の姿勢が悪かったのか、痛めた首を抑えながら姉貴の後に続く。 「……結構でかいな」 思わず率直な感想を漏らしてしまう。 今までマンション暮らしだった俺が、普通の一軒家でもいざ自分が暮らすとなると大きく感じてしまうのは仕方のないことだろう。
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