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「あんたの部屋は2階よ」
俺の姉貴、小早川 奈美(こばやかわ なみ)がどうでもよさそうに俺に向かってそう言う。
その姉貴の弟である俺の名前は、小早川 圭亮(けいすけ)。
今年で高校一年生になる、至って普通の健康優良男児だ。
「さ、引っ越しの荷物運ぶわよ」
「へ?運んであるんじゃないの」
「馬鹿、お金かかるじゃない。つまりあんたの腕の見せ所ってわけね。さっさと運んじゃってちょうだい」
姉貴が俺に向かって片目を瞑ってみせる。
正直不快にしか感じないのだが、そんな事を言えば俺は頭をかち割られるので今は黙っておいた。
かの福沢諭吉も『天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず』とか言ったらしいが、俺の家では人の上に人がいるのが現実だ。
絶対姉政と言っても過言じゃない。
「……分かったよ」
「頑張りなさいよ?」
「…………。」
姉貴は俺の無言を肯定の証と受けとったのか、ご機嫌に口笛を吹きながら新しい我が家に入っていった。
あぁー。
殴りてえ。
左ジャブからの右アッパー叩き込みてぇ。
とか何とか考えても、結局は姉貴に逆らう事なんて俺にはできないのだ。
カウンター決められるし。
「大変ね、圭亮」
立ち尽くす俺に、ノホホンとした感じで母さんが話し掛けてきた。
「そんな人事みたいに……」
「母さんの分も頑張りなさいよ」
「え」
「買い物に行ってくるから」
母さんはハンドバックを手に、住宅街の道をスタスタと歩いて行ってしまった。
いつの間にか俺達が乗っていた車も、父さんと共に消えている。
え?
みんな俺任せなん?
「嘘だろ……」
呟いても、反応してくれる人すらいない。
虚無感に襲われた俺は、重い足取りで玄関まで歩いていった。
新鮮な気持ちで開けるはずだったドアも、絶望感に支配されたまま開ける羽目になってしまった。
そしてドアを開けた瞬間目に入ってきた段ボールの山に、俺はより強い絶望感に打ちひしがれてしまった。
あぁ。
猫の手も借りてぇ。
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