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こうなったら……。
「よし!」
逃げよう!
「あ、母さん達のは後でいいらしいから、私のからチャッチャと運んじゃってちょうだい」
「分かりました」
何だよ今のタイミング。
俺の心読んでんの?とでも言いたくなるくらいのタイミングの良さで、姉貴がリビングから顔を出した。
「あの……姉貴?」
「何よ」
「俺さ、その……喉渇いちゃったかなぁなんて」
「へぇ……まだ一つの段ボールも片付けてすらいないのに、アンタのその喉は水分を欲しちゃってるわけ?」
「いや、あのですね……」
弟をそんなに追い詰めて、何が楽しいんだろうねこの人は。
俺も良く耐えてきたもんだよ。
「まぁいいわ。私の分も買ってきてちょうだいね」
「お金は?」
「え?何か言った?」
自腹なんですね、わかります。
「行ってきます……」
「あっ、私今微炭酸のジュース飲みたい気分だから。そこんとこヨロシク」
俺はどうすればいいの?
頭にクエスチョンを浮かべている俺を嘲笑うかのように、姉貴は玄関入ってすぐにある自分の部屋にさっさと入っていった。
とりあえず財布がポケットに入っている事を確認すると、俺はため息を吐きながら外に出た。
「……こっちだったかな」
実は、俺はこの町に住むのは2回目だ。父親の仕事の都合でこの町を出ていったのが、約二年前。
それ以来親戚がいる訳でもないので、友達には会いたかったがこの町に来る機会は無かった。
二年近く離れていると、店や自動販売機の場所もうろ覚えになってしまっている。
俺は何の頼りにもならない曖昧な記憶と直感に従いながら、歩き始めた。
「……こっち、かな」
曲がり角を、右や左にウネウネと曲がっていく。
途中家の前に三回くらい戻ってしまいながらも、20分かけてやっと一軒の駄菓子屋を見つけた。
昔良く来た覚えがある。
リフォームをしたのか、外装が変わっているせいで近くに来るまであまり分からなかったが。
「すいませーん!」
中に入り、クーラーボックスに入っているジュースを取り出すと俺は奥に向かって叫んだ。
中々出てこないのが、この店のおばちゃんの特徴だったのを思い出す。
それと同時に、出てこないのを利用してうまい棒を万引きしようかしまいか迷っていた昔も思い出す。
まぁ理性が勝って、犯罪者予備軍にはならなかったけれども。
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