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「はい……あら?」
1分くらいして、ようやく店のおばちゃんが姿を現した。
俺から商品のジュースを受け取ると、何故かまじまじと俺の顔を覗き込んでくる。
「あんた……圭ちゃんかい?」
圭ちゃんて。
「うん。覚えてる?」
「覚えてるってあんた!いやぁ、大きくなっちゃってまぁ!全然店来ないで何してたんだい!」
「いや、引っ越ししてたし」
「引っ越し……?」
目をパチクリすると、いかにも驚愕している様子を見せるおばちゃん。
……結構周りの人に引っ越す事は伝えてたと思うんだけどな。
「どうりで来ないわけだねぇ」
「聞いてなかった?」
お金を渡して、お釣りを受け取りながらそう尋ねる。
「知らないねぇ。こんな店だから来るお客なんて決まってるし、さすがにおかしいなとは思ったけど……戻ってきたのかい?」
「うん。これからまたボチボチ来ると思うから」
「まぁこの町は何も変わってないし、またすぐ馴れるよ。またね」
頭を下げると、俺は店から出た。
俺の事を覚えてくれていた人がいた事で、なんだか少しだけ安心できた。
ここから引っ越していった時は、まったく知らない土地で不安になったものだ。
ただでさえ方向音痴の俺が土地を把握もせずに探検したせいで、引っ越し初日から迷子になった事を思い出す。
「よし」
5分ほど歩いた所で曲がり道を左に曲がると、新しい我が家が見えてきた。
さすがに10年以上住んでいた土地だ。店からの帰りは難無く家に帰り着く事ができた。
「……ん?」
しかし。
新しい我が家の前には、誰かが立っていた。
近付いていくと分かったが、インターホンに手を伸ばしては引っ込めを繰り返し、押そうか押さまいかを迷っているようだった。
俺はさすがにシカトするわけにもいかず、その人の様子を伺いながら家の前まで行く。
距離が縮まっていくと、足音に気付いたのかその人はゆっくりと顔をこちらに向けてきた。
「あ……」
「…………!」
目が合うと、思わず固まる。
最初に断っておくが、俺は女好きとか女たらしではない。あ、ガチホモでもないからね。
何が言いたいって、普通の男の子って事なんだよ。
そんな俺が固まって言葉を失う程にその女の子が、その……可愛いかったんですね。
いや、本当に。
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