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「じゃあ……こき使わせてもらおうかな」
「あ……でも、客人だという事と、私が女の子って事を忘れちゃ駄目だぞ?」
「力に自信あるんじゃないの?」
「む……まぁ圭亮はどうだか知らないが、私は女の子に重い荷物を運ばせる男の子なんて風上にも置けないと思うけどな?」
「へぇ、変わってるな美鈴は」
遠回しに軽い荷物しか運ばないと言っている美鈴。
まぁ俺もわざわざ引っ越し当日に訪ねてきてくれた人をこき使える程鬼畜じゃない。
美鈴には軽い荷物を頼んで、俺の仕事を少しでも減らしてもらおうかな。
「じゃあ、早速行くか?」
「うん」
笑顔のまま美鈴はそう言うと、意気軒昂といった感じで玄関の方へ歩きだした。
ん……?
いや、待てよ。
家の鬼姉は、俺とか身内の前じゃあんなんだが、人前じゃ良い格好を見せようとするはずだ。
つまり美鈴が手伝いに来たと知れば、いやがおうでも姉貴も手伝わなきゃいけない羽目になるだろう。
「よし!行こう!」
「急に元気になったな……?」
俺は先に歩きだした美鈴を抜く勢いで玄関に到達した。
その勢いのまま、元気良くドアノブに手を伸ばす。
「ただい……」
「ジュース1本に何分かかってんのよ」
あ……あれ?
姉貴の部屋って玄関だっけ?
「あの……何故ここに」
「いつまで経ってもあんたが帰って来ないから、今から探しにでも行こうかと……ん?」
俺の後ろに誰かいる事に気付き、醸し出す殺気のオーラを抑え始める姉貴。
美鈴は少しオドオドとしながら、俺の背中から顔を出した。
「ひ、久しぶりです……」
「……ちょっと、あんた」
俺の手を引っ張って背中を丸めると、姉貴はヒソヒソと話しだした。
「ジュース買うついでに、あんたは女の子まで買うようになったわけ?」
「んなわけないだろうが」
「誰よ、あの子?」
「美鈴だよ。金子美鈴。姉貴も何回も会った事あるだろ?」
目を見開き、美鈴をチラリと見る姉貴。
どうやら俺と一緒で、まったく気づいていないようだった。
「久しぶりね、美鈴ちゃん」
「はい!」
……すごいな。
殺気が一瞬で引っ込んだよ。
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