方舟

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方舟

 名も知らぬ遠くの島より  流れ着いたみたい  にじんだローマ字にも見えるって  笑ってた    九月の海はどこかしらに  冷酷(つめ)たい意味を持つ  したたかな妖精が棲むって  話してた       まだ幼い   瞳の奥の壁にも     揺るぎない   力強い将来(あす)が   浮かんでた       「逢いたい    もいちど、巡り会いたい」      そんな妄想をよそに      知らないうちに    あの頃から    街の色も音も    変わってた        くだらないサプライズだけが  二人に許された  馴れ合いの  ひとつだとしても  幸せで    五月の薫りから放たれた  風に縺(もつ)れながら  幾つかの結末に延びる  道に出る     二人、顔を見合わせて   悩み入り   吸い込まれるような感情   身動き取れぬまま     「それでも    もいちど、巡り会いたい」      そんな願望をよそに      知らないうちに    あの頃から    雲の船の位置も    遠ざかり
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