追憶―そのⅠ―

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「ラインハルトー!」  あ……。  少年も嬉しそうに手をぶんぶん振りながら走り寄る。 「かーさまーっ!ただいまー!」  リリアーヌの背後から少年の母親らしき人物が現れて彼を抱き止めた。 「おかえりライン」 「えへへ、ただいまあ」  ――ああ。  リリアーヌの中ですとんと音を立てて全てがあるべきところに収まった。むしろ納得がいきすぎるくらいだ。 (ラインハルトか……)  そういえば前に彼の過去を垣間見た時の姿に似ていなくもない。その時より今の方が小さいが。  見ると親子は仲よく手を繋いで近くの家に入っていくところだった。 「ねえねえ母様、今日のご飯は何?」 「んー?ラインの好きなものよ」 「えっ、ハンバーグっ?」  一段と輝きを増す瞳を見てリリアーヌは思った。ここまでくれば本物だと。いっそ感心するくらいの平々凡々さだ。母親の方も、なかなか綺麗な女性であったが、奇抜さや個性といったものをあまり感じない。家で二人を待っていた父親も、妻との年齢差以外気になるものはあまりなかった。 (成程……これが彼を形作った環境……)  本当に、色々納得できすぎて怖い。  その後一家は三人で温かな極々当たり前な食卓を囲み、ラインハルトは両親に早めに寝かしつけられた。  リリアーヌはその光景の全てを憧憬に近い眼差しで眺めていた。  食器を片付け終わった母親がすぴすぴ寝息を立てているラインハルトを見て、微笑んで父親に話しかけた。 「ねぇあなた、本当にラインはいい子に育ってくれてますね」  リリアーヌと父親が同時に頷いたが、母親に見えているのは夫だけだろう。 「そうだな。元気だし、礼儀も身についてきた。頭もそんなに悪くない。ただ一つ文句をつけるとしたら、個性がないところだ」  それをきいた王は配下に同情して思わず涙目になった。 (ら、ラインハルト……この頃から既に云われてたんですか……!)  母親も不服そうに反論する。 「別にいいじゃないですか、そんなものなくったって。私はラインには普通に、元気に育ってもらえればそれでいいですよ」 「しかし、世の中渡って行くのに何もかも普通すぎても駄目だろう。何もドートアギトみたいに―――」 「その名前は口にしないで!!」
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