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リリアーヌはその悲鳴じみた声に両耳に手を当てた。父親も目を見開いた。
「しー、静かに、ラインが起きるだろう」
父親がちらりと息子を振り返ったが、彼は相変わらず健やかな寝息を立てていた。こんなに間近であの音量で叫ばれたのに、彼の眠りは妨げられないらしい。無邪気に寝たままのラインハルトに布団をかけ直してやってから、母親はヒステリー気味に手を揉んで謝った。
「ごめんなさい、あなた。でも、やっぱりあの子の名前をきくと……」
今にも泣き出しそうな顔の妻に夫は首を振り慰めた。
「いや、儂も悪かった。あれについて話すべきではなかったな。――泣くなティファ、もうあいつはいないんだよ」
「――ごめんな、さ……分かってるんだけど、でも、やっぱり……」
泣きじゃくる女を彼は撫でる。
「仕方がないことだ。あいつはどうも気味が悪かったからな……。ほら、寝よう、ティファ。大丈夫、もう心配することは何もない」
夫婦は蝋燭の灯りを吹き消して寝台に潜り込んだ。その時ティファと呼ばれた女性はリリアーヌの体を通り抜けたのだが、本人は気づいていない。聖女だけが僅かに顔をしかめる中、
「おやすみ、ティファ」
「……ええ……おやすみなさい、あなた。眠っている間、神様が守って下さいますように」
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