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そこで自分の意識は還るのだと思っていたが、リリアーヌの予想に反して追想は更に続いた。彼女の前で何度も少年ラインハルトは起き、遊び、学び、また眠りにつく。ありふれた日常が繰り返される中、彼女はあることに気づいた。
(夜の記憶が……)
夜の、ラインハルトが眠った後の記憶。それは本来あるべきものではない。記憶の主であるラインハルトの意識が覚えていないものが、彼女に見えるはずないのだから。しかもラインハルトが起きているかというとそうでもない。
(なんだ、これは)
リリアーヌはそれから少年の就寝後の夫婦の会話を注意してきいた。そして母親がいつもある言葉を繰り返していることに思い至る。
――個性や、才能なんかなくていい。そんなものなんの役にも立ちません。普通がいいんです。
その言葉はどうも異常なように思えた。親であるならば、我が子には特別であって欲しい、優秀であって欲しいと願うのが普通ではないか。なのに母親は頑としてラインハルトの『個性』を肯定しようとしない。
あの子のようにならなくていい、と云って。
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