45人が本棚に入れています
本棚に追加
そのことに気づいてからは、ふとした瞬間に彼の行動の歪つさが目につくようになった。
他の子供と遊ぶ時、彼はいつも最も人数が多いグループの中にいた。
学校で試験を受ける時、一人早々回答し終えた後、周りの子供が難しい顔をしているのを見て慌てて答えを幾つか消した。
繰り返される『特別』の抹消。
残される異常なまでの凡庸。
ここにきてリリアーヌは漸く自分の認識の甘さを思い知った。そう。人間には誰しも他から突出したものが一つや二つくらいあるものだ。彼の場合、その平凡さこそが異常。母親の歪んだ願いから生じた無意識の産物だった。
記憶が進むにつれて、その歪曲した個性は更に際立つ。成長したラインハルトはあらゆるところで平凡だと囁かれるようになっていた。面白くないから、と好意を寄せていた娘から振られたこともあった。それでも幼い頃無意識に刷り込まれた教えに従い、少年は自分も気づかないうちに平凡を演じる。
やがてラインハルトの父が亡くなり、少年は自分に個性を見出だそうとする最後の味方を失った。この頃から彼の『平均化』は拍車をかけて進む。
平凡であること。並であること。まるでそれが行動理念であるかのように、ラインハルトは正確に人形のように駆動し続けた。
最初のコメントを投稿しよう!