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だがしかし、住み処を変えたからといってドートアギトの嗜好が変わるわけもない。移り住んだ町でやはり彼は屍の山を築き上げた。唯一の救いは彼が人間や大きな動物を狙わず、殺戮対象を猫に限定したことくらいだった。流石の彼も、前回の自分の失敗により父が死んだことには衝撃を受けたらしく、以後は口数が極端に減り、ただひたすら猫を殺して回っていた。
町の人間の繋がりは村のそれ程強くなく、親子を助ける人間は少なかった。しかし、中には異常な息子を一人で育てる心労からどんどん窶れていくティファを気遣う者もいた。その最たる者が隣の家に住んでいた鍛冶屋で、後にティファの再婚相手となるマルケンという男である。
マルケンはその時ドートアギトの趣味について何も知らなかった。無口にはなったが、ドートアギトは相変わらず利発で、滅多に口をきかないことも逆にその思慮深さを印象づけていたこともあり、将来有望な息子を持ち、生活にも困窮していないはずの彼女が何故いつも憔悴して見えるのか全く理解できなかった。
忘れ物をしてたまたま仕事場から一時帰宅した彼の耳に、ティファの号泣の声がきこえてきたのは、二人が越してきて一年あまり立った頃だった。尋常でない泣き声に隣家を覗くと、家の中でティファが一人、猫の死体を抱えて嗚咽していた。どうしたのかと尋ねても、彼女は首を振り猫を抱きしめるだけだった。どう見ても大丈夫でない彼女を放っておけず、マルケンは急いで仕事場を閉めてから再びティファの元に戻り事情を訊いた。
ティファは最初なかなか話したがらなかったが、根気強い説得と自身の切迫した心境からついにマルケンに全てを打ち明けた。息子のこと、夫のこと、前暮らしていた村であったこと。話が進むにつれマルケンは背筋に戦慄が走るのを抑えられなかったが、最後まで辛抱強く彼女の言葉に耳を傾けた。
そして彼女の話が終った時、その痩せこけた肩を抱いて結婚を申し込んだのである。
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