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「どうしたのかのぉ、今日の小僧は」
「ええ。……少し、心配です」
もふもふの眉をひそめるグスタフに、溜め息のようにリリアーヌは云った。会議後、マフィンに喝を入れる、と引きずられていったラインハルトを見送っての言葉だった。
「ほほぅ、リリアーヌに心配してもらえるとは、奴も果報者じゃのぅ」
冷やかすような彼の発言に聖女は柔らかい笑みを見せる。
「大切な仲間ですからね」
「ほほぅ……」
王は鼻の下を伸ばす老傭兵に苦笑した。気のせいか、その笑みはいつもよりかなり苦めのように思える。
「勿論、グスタフさんも大切な仲間ですよ」
「ほっほうっ!」
「にしても、本当にどうしたのでしょうか、今日のラインハルトは。前にも云いましたけど、昔から元気だけが取り柄だったのに」
ささっと話題を変え、ついでに体の向きを変えて王は奇声を上げるグスタフの抱きつき攻撃をかわした。スカっと空を切った腕を傭兵は何やら切なそうな目で見つめる。
「……。確かにの。いつもは普通に出席して普通に普通な発言をするのにのぉ」
「そうですね……」
目を伏せるリリアーヌにグスタフは真っ白い眉を上げた。筆のようにふさふさな塊が片方だけひょい、と器用に持ち上がる。
「彼の発言がなかなか出ないおかげで、今日は困りました……」
「おう?そうかのぅ?いつも普通なことしか云っとらん気がするが」
「ええ。それ――」
その時、会議室の扉が開いて、マリアベルがひょっこり顔を出した。兵の看護に追われて今日の会議からは席を外していたのだ。
「あの、こくお――グスタフさん」
「のう?目が怖いのぉ」
「気のせいです。国王、ちょっと来て頂いてよろしいですか?」
腹心の言葉に眉をひそめて王は席を立った。
「何かありましたか?グスタフさん、失礼します」
――わっ、儂の、儂の目の保養ぅぅっ!と叫ぶ老人を残し、二人は部屋を後にした。
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