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同じ頃、修練場で正しく鬼のような形相の将軍がとある平凡な青年をとっちめていた。
「おい。ラインハルト。オメェ、俺たちがさっきなんの会議してたか本当に分かってんのか」
「せ、戦後のこと?」
怒る彼女を見上げつつ云ってみるとその答えにシスターは頷く。
「そうだな。如何にも戦後のことだ。戦争が泥沼化し終わりが見えないとは云え、作戦会議と同じくらいには重要な議題だ」
「あ、ああ」
「おや、分かってるのか。では教えろ。何故。何故オメェはその重要な会議の最中に自分の平凡さについて悩んでるんだ!?ア!?」
「まっ、マフィンっ」
「ふざけるなよっ!!心配して損した!」
一人で憤慨して去って行くマフィンに、残されたラインハルトは声をかけ損なってしまった。ずんずん遠ざかる背中を見つめて、
「……あーあ」
彼は頭を掻いて苦笑いを浮かべた。
やはり他人から見たら全く馬鹿馬鹿しい悩みらしい。
「本人は結構、切実なんだけどな……」
服を軽きはたきながら立ち上がり、彼はゆっくり自室へと足を進めた。とりあえずさっきシスターにぶん殴られたところが痣になっていないか確かめに行こう。別に自分の平凡な容姿にさして影響があるとも思えないが、流石に左頬が真っ青だったら目立つ。
歩きながらふと会議室でのことを思い出し、彼は心の中で笑う。
(そうか、あの時ビンタだったのは一応優しさだったのか)
それでも軽く頬が腫れるくらいだが、今さっき食らった鉄拳に比べたら幾らマシか分からない。
「ははははは……」
将軍マフィンが鋭い眼差しと異形の見かけに反してなかなか情に篤いことは、もはや陣内の常識だった。
寝室まで辿り着いた頃には、もはや顔のこともどうでもよく、鏡を見ずにカーテンだけ閉めるとふらふらと寝台に横になった。見上げた天蓋は暗くて、それが自分の心を映しているようだったから目を片腕で覆った。
「……くそ……」
誰が返事をするはずもないのに、闇に向かってぽつりと呟いた。
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