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――何故、と聖女は焦る。目の前が真っ暗になってくるこの感覚に、彼女は覚えがあった。しかし、それは今起こるべき現象ではなかった。
今は目の前に誰もいない。あれが見えるような兆候は何一つとしてなかった。
では何故今奔流のように映像が頭をよぎるのか。
(呼んでいる……)
どこか――どこか遠くから、呼ぶ声がする。
――誰?
鈍く体に衝撃が走った気がした。自分は倒れたのだろうか。ああ――マリアベル。
一緒にいた側近は今頃血相を変えているだろうなと思ったが、映像の渦から逃れる術を知らぬ王の意識はそこに呑み込まれ、絶えた。
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