追憶―そのⅠ―

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追憶―そのⅠ―

 それは見たことのない風景だった。  その町を見てリリアーヌはまずそれだけは確信した。少なくとも直に行ったことがある土地ではない。どうやら自分はまた人の記憶に紛れ込んでしまったらしい。  ――こうなってしまったら足掻くことは無駄だと過去の経験で知っている。表の世界では自分がいきなり倒れてさぞ大騒ぎになっていることだろうが、そう思ってもリリアーヌ本人も帰り方が分からないのだ。ここは暫く諦めて、重臣たちには余計な気を揉んでもらう他ない。  それにしても、自分は今度はどこに飛ばされたんだろう、と彼女は辺りを見渡す。戦争が酷くなる前にはどこにでもあった、あまり特徴のない普通の町だ。家が並び、道があり――と彼女は目を凝らす。道の遥か先に何かがいた。  反射的に腰に手をやったが、今の彼女は丸腰で、剣はおろか鎧さえ身につけていない。ぐっと唇を噛み、彼女は仕方なく棒立ちでその何かを迎えた。彼女がこの世界に直接関われない代わりに、この世界の者も彼女と接触できないのは分かっていたが、それでも戦乱に慣れた身に無防備で待つことは耐え難かった。  暫くして点くらいの大きさだったものは近づいて大きさを増す。それは狩人の目には子供として映る。これがこの記憶の主だと直感が告げた。 (――誰だ?)  流石に顔まではまだ判別できない。――大体、判別できたとしても人物のいかんによっては分からない可能性もあることに彼女は気づいた。 (シスターとかはまだ分かりそうだけど……角があるし……でも流石にグスタフ殿だったら分からないかも……)  狩人の目は時を遡るためにできていない。いや、そうだったとしてもあの老人からあの眉をとることは―― (……眉のないグスタフ殿……?)  なんだそれは。棘のないサボテンか。日頃砂漠に咲いている花に彼女は思いを馳せる。そして思う。そういえば、ここは砂漠に比べて随分日射しが弱い。案外ルスランなどに近いのかもしれない。  その間にも点は更に自分との距離を縮め、やがて豆粒に、そして普通の子供の大きさになっていた。どこにでもいそうな特徴のない少年だったが、目だけはキラキラ輝いていた。 (あれ……この子供、どこかで見たような……)  何分特徴がないので思い出せずにいると、背後からその子供に声をかける者がいた。
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