シーン3

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◇  ガンガン! ゴンゴン! 「開けろ友希ー!」  脱衣所の扉を乱暴に叩き、兄貴が吠えている。鍵が付いてて本当によかった。 「恥ずかしがんなよ。男同士じゃねーか!」 「男同士じゃねーよ!」  うちの兄は一旦決めるとしつこい。それでも扉を壊すという強行には流石に出ず、五分ほど粘った後に諦めてくれた。  扉の向こうから兄貴の気配が遠のいていく。それに従い風呂場に一人という自分の状況が怖くなってきた。洗面台の鏡が直視できない。我ながら情けない。  しかし、ここで風呂に入らず逃げ出そうものなら、本当に兄貴が無理矢理一緒に入りかねない。何より男が廃る。いや、もうとうの昔に廃ってるか。  ええい、どうにでもなれ!  脱ぎ捨てた服を洗濯機にぶち込み、浴室の戸に手をかける。これから一生風呂に入らない訳にはいかないんだ。いちいちビクビクしてたまるか! 僕は生まれ変わるんだ!  それは、新たな自分への第一歩。ビビリ克服のためにも、桜子さんに相応しい男になるためにも、僕は風呂如きで怖がったりしない! 燃え盛る魂を糧にして、力強く戸を開いた。 「ハロー」  神様がいた。 「ふおぉぉぉぉぉ!」  今日はよく叫ぶ僕。叫び声のレパートリーが尽きるのは時間の問題だ。って、そんなことはどうでもいい! 「何故貴様がここにいるッ!」 「神じゃからね」 「答えになってない!」  しかも全裸じゃないか! 何普通に人ん家の風呂に浸かってやがる!
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