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「緊張してるの?」
「……先輩」
部室で準備をしていたら、先輩に声をかけられた。
「なんてね。いつもよりやけに気合い入れて磨いてるよーに見えたけど。実はぼーっとしてんでしょう」
すっと伸ばされた白い指は、俺の手元を指す。
――トランペット。
曇りのない金色をしたそれは、俺の相棒であり、いま一番情熱を注いでいるものだった。
トランペットを始めたきっかけは、とあるトランペット奏者の演奏に深く感動したから。
ときに力強く、ときに優しく、ときに悲愴をたたえて旋律を響かせるトランペットは、なによりも無限の可能性を秘めているように感じられた。
言葉より真っ直ぐ、鮮やかに、聴く人の心を貫く。
彼のような演奏がしてみたい。
そう思った俺はトランペットを習い始めた。
吹奏楽部が有名な中学校に入り、今いる高校の吹奏楽部もまた、強豪だった。
明日のソロコンクールでは、審査員のひとりとして長年憧れたトランペット奏者が聴きに来るらしい。
――俺の演奏が、彼の耳に届く。
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