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「せっかく具合良くなったんだからさ。明日は万全の状態で挑まないとね。体も、心も」
迷いを見透かすかのように、ひとつ年上の女子生徒は笑った。
基礎練終わったら呼んで、と言い残して去って行く彼女の片手にはクラリネット。
……クラリネットを吹く時間を俺のために分けてもらうんだもんな。
相棒の手入れを終えると、基礎練習をするために外へ出た。
風邪気味で息を吸いづらかったときとは違う。
いつもの感覚が戻っている、と感じた。
腹に空気を送る感覚で深く息を吸う。
確認するように鳴らす、Bのロングトーン。
――大丈夫だ。
明日、どうしても最高の演奏がしたい。
自分に都合のいい話かもしれないが、そうすることがあいつへの感謝になるんじゃないかと思った。
あいつが整えてくれた体調のおかげで、俺は俺にとって過去最高の舞台に、最高のコンディションで立てるんだ。
俺の望みは、あいつが叶えてくれたんだ。
ここからは本当に俺が頑張る番だ。
……いまは、我が儘な考えでも。
どうか、許してほしいと思ってしまう自分がいた。
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