金色の命

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    「先輩、いいですか」 クラリネットの人達が練習していた部屋の入口から声をかけると、先輩は穏やかな顔で頷いた。 今日は本当に調子がいい。 先輩に声をかける前にひとりで吹いてみたが、驚くほど思い通りに吹けた。 大会で演奏すると俺の選んだ曲は、あのとき聴いたのと同じ曲。 といっても、規定の長さにひっかかってしまうから、曲の一部だけど…… 頭を揺さぶったような衝撃とともに、その旋律を忘れることはなかった。 聴いた当時は曲名など解らなかったが、自分もトランペットを吹くようになってから、たくさんのCDを聴いて、探した。 楽譜を探し、大会ではこの曲を吹こうと決めた。 先生はしばらくほかの曲をすすめてきたが、どうしてもこの曲がやりたいと粘った。 随分しつこく粘ったよなぁ。 遂に根負けして折れた先生は、どの部分を演奏するのがいいか一緒に考えてくれて、うまくまとめてくれた。 そして、審査員として彼が来ると知る。 これは運命なんじゃないか。 オカルト的なものを信じない俺が、唯一神様にお礼を言ったときだったっけ。  
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