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先輩が準備を終えたのを見て、俺は位置に立つ。
ピアノの奏でるしっとりとした旋律が、部室を満たす。
あの曲の、穏やかな部分だ。
伴奏を潰さないように、ピアノの音も一緒に溶け合うように――相棒を鳴らす。
満ち足りた気分だった。
吹き終えて、まず思ったことだ。
今までで一番いい。
「音、変わったね」
「えっ?」
先輩の言葉に振り返る。
思わず素っ頓狂な声も出してしまった。
「いいことだよ。なんか……曲に合った音になった。今までは正直、がむしゃらっていうか……あんた『らしい』音だったんだけど。今のは、曲にぴったり」
俺らしい、か。
きつい性格だもんな、俺。
でもわかったんだ。
今になって、直前になって気が付いた。
自分のことしか考えてない、独りよがりな音だったって。
たくさん、周りを振り回した。
たくさん、迷惑をかけた。
どうしても、なにがあっても。
俺の為にも、先輩の為にも、先生の為にも、憧れの彼の為にも、そして、あいつのためにも。
明日の大会に、いまの俺が持てるすべてをかける。
俺の夢のために力を貸してくれた人達に、感謝を込めるのも忘れない。
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