そらのきざはし

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    大会はなんのトラブルもなく終わった。 演奏前は、緊張よりも、もっと熱くて激しいなにかが胸を渦巻いてじっとしていられなかった。 熱に浮かされたような頭は、控え室で準備をする順番がきたあたりで驚くほど落ち着いた。 チューニングをして、舞台袖で待機して。 自分の順番になって舞台に出てライトの熱さと客席からの視線を感じたとき、俺の中のスイッチのようなものが入った気がする。 「やー、本番に強いとは思ってたけど。最高の演奏だった。改めておめでとう」 帰りの電車の中、先輩が満足げに褒めてくれる。 俺は、金賞を受賞した。 あいつがなにかしらの力を使ったかどうかは分からない。 でもきっとそうじゃない。 俺は俺と、あいつのことを信じたいから。 昨日は結局来なかったし、来た形跡もなかった。 それだけが僅かに、心の中でしこりのように残る。 「先輩がいつも通りでいてくれたってのもありますよ。俺こそ改めて、ありがとうございました」 軽く頭を下げると、先輩は少しだけ笑った。 俺なんかよりよっぽど本番に強い人だと思う。 「どういたしまして。……昨日かららしくないことばっかり。風邪治ったんじゃなくて、実は双子の弟かなにか?」 そんなに俺がお礼を言うのはらしくないのだろうか。  
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