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「はい」
酷い声だ、と思うがしかたない。
風邪にやられた喉は、焼かれたように痛む。
受話器の向こうから反応はないままだ。
イタズラか? と思ったのと同時に、聞き覚えのない声が、あの、とか、その、とか慌てていた。
その声は女子のもの。
一人暮らしの男子高校生である自分の部屋に見舞いにくるような仲の女子に心当たりはないし、電話ごしのせいか誰の声かも分からない。
相手が何事かを話す意思がありそうな手前、切りにくい。
早く話してくれ。
やがて、切羽詰まったような声は、早口で言い切った。
『こんにちはっ、わ、私、天使なんです! あなたの願いを叶えにやってきましたっ』
「……は?」
迷わず通話状態を切って、受話器を戻す。
元のようにうつぶせの姿勢になると、けだるさが押し寄せてきた。
なにがこんにちは、だ。
日が暮れて辺りは真っ暗なのに。
頭おかしいんじゃないのか。
しかも天使って。馬鹿馬鹿しい。
よりによって、こんなときにイタズラはやめてほしい。
――ぴんぽーん。
無視しよう。どうせあの女だ。
――ぴん、ぴんぽー、ぴんぽーん、ぴ、ぴんぽーん……
連打するんじゃねえ、頭に響く。
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