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スピーカーの音量は普段より少し下げた。
『どうか出てきてください……電話じゃ、接触したことにならないんです』
接触。
意味がわからない。
このまま無視し続けてもいいが、このままでは一晩中こいつに苦しめられかねない。
観念して出ることにした。
壁に手をついて体重を預けながら、玄関までたどり着く。
学校から帰るときはここまで辛くなかったのに。
家に着いた安心感から気が緩んだのか。
力の入らない手でドアノブをひねる。
押したドアの向こう側には、少女が立っていた。
やや申し訳なさそうに佇んでいたのは、俺より頭ひとつぶん以上小さい、華奢な少女。
そこらを歩いても違和感のない現代的でカジュアルな服装をしているせいで、『天使』のイメージは沸かなかった。
ませた中学生にも、休日の高校生にも、あどけない大学生にも見える。
しかし決定的な『普通』との違いはその瞳だ。
ぱっちりと開かれた大きな瞳は、夏の晴れた空のような澄んだ青色をしていた。
それを縁取る長い睫が、顔に影を落としている。
そいつは俺を見るなり、まるで生き別れの家族に会えたときのような顔をした。
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