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「あれ? まだいたんだ」
雲羅はにこりと笑うと、静かに影となって、消えていった。
梔の香りが、薄ら香る。まるで、梔そのもののように。
長い間、千寿と桜はその場に佇んでいた。
「──また、始まるのか。怨の遠き園へと、人は迷いけり─」
「─はい。
それに何ぞ魍魎鬼神妨げをなし 非業の命を取らんとや…」
「百鬼夜行の群れが、いつかこの村を襲う。かの悪夢に誘われて…」
千寿はそう言うと、本堂へと戻っていった。その後ろ姿は全てを失った狩人<カリビト>のようだった。
季節外れの桜の花びらが、寺に舞った。
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