八話 老いた世

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あれはまだ五歳だった時だ。 夏のある赤口<シャッコウ>の日、妹の誕生日だった。誕生日祝いに、隣町のあるレストランへ行く予定だった。 いつものように隣町へと続く国道を車で、走っていた。 楽しそうな車内。とびっきりの笑顔。夢のような時間だった。 ──そう。あの時までは。 カーブが続く山道を走っていた。その時、対向車線から一台のトラックが突っ込んできた。 視界は闇に覆われ、耳鳴りがするだけだった。 気がついた時は病院のベッドの中だった。 隣には医師が立っていた。僕は「家族は、どうしたんですか?」と聞いた。 その時、医師の顔が雲った。 ……僕は理解した。 嗚呼、そうやって悲しそうな振りをする。 「……あなた以外は、即死でした。…悲しいと私達も思います」 …嗚呼、また情を売る。 全てが嫌になった。自分の生きる世界は、一体、どこにあるんだろう。
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