十話 残月録‐地獄話‐

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深い山々に囲まれた小さな村──苳村。一年前に起きた大地震により、村は消えてしまった。村があったと思われる場所には慰霊碑が立てられていた。 その慰霊碑の前に一人の男がいた。 ファーがついた黒いジャケットを着て、顔にはサングラスがかけてある。全身黒づくめの男はショルダーバッグから、茶色のスクラップブックを取り出した。 スクラップブックにはびっしりと名前が書かれていた。ここに書かれている名前は、住人登録表に記されている、この村の住人の名前だった。 何故、男がそんなことを調べていたのかは、目の前にある慰霊碑が語っていた。 一人一人、慰霊碑とスクラップブックに記されている名前を照らし合わせる。すると、ある真実が見えてきた。 男はふと、言葉を漏らした。 「──堀田慶輔」 その名はかつて、この村に悪夢を呼び込み、村人を抹殺した者の名だ。その名を口にするのにはちゃんとした理由があった。
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