十話 残月録‐地獄話‐

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男はそっと目を閉じ、合掌した。 神の気まぐれにより滅んだ村。全ての渦に巻き込まれ、生きることを許されなかった人々。憐れな時の狭間に消えた北尾千寿。 全てに祈りを捧げた。 冷たい雨を誘う風が吹く。夕暮れの空に暗雲は垂れ籠める。 「さて、語ろうぞ。 お主が残した望み、物語、祈りを!」 男はショルダーバッグから紙束を取り出し、空に撒き散らした。 そこには過去が綴られていた。誰の過去かは、誰も知らない。 ────── ─── 外で激しく雨が降る。時折風が吹き、雨戸を揺らす。 時は幕末、まだ反政府派が新撰組と抗争していた。近藤勇率いる新撰組が京都に入り、まもない頃。 京都に一人の遊女がいた。 流れる黒髪を束ね、豪華な簪で止めている遊女が退屈そうに外を見ていた。 名前は××××。京都では有名な遊女だ。 「ホンマ、何にもあらへん。退屈で嫌やわ」 ため息を漏らし、澄み切った空を見た。憎たらしいほど綺麗な空は××××にとっては、羨ましかった。
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