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犬神に任せて縛り付けてはいるが、それも、何時まで保つのか判らない。
私自身の力は無いと言っても良い。
この力のコントロールが出来ない以上は、暴走する以外は普通の人と変わりないのだから。
とはいえ、このまま黙って見ている訳にもいかない。
「さて…自分が何処まで時間稼ぎできるか。だね。」
暴走している者をいつまでも縛れるとは思ってはいない。
いくら犬神といえども、その依り代となるのは私自身のもの。
現に、振り払おうともがいているその姿に、少なからず焦りを覚えた。
「時間がない…か。仕方ない、直接や…」
言い終える暇(いとま)もなく、戒めを振りほどいた誠治が暴れだし、唸る左拳を避けきれずに裏拳の形で左の頬を強打する。
急な出来事に思考は止まり、押し倒されるがままにソファーに身を沈められた。
襟元に手をかけられる。
普通だったらこの先の展開に身を震わせるか抵抗でもするだろう。
しかし、誠治の目を見つめて不思議と穏やかな表情(かお)をしている自分がいた。
服が破られ胸元が露になる。
それにも構わず迎え入れる様に両手を広げ、次を紡ぐ言葉を口にした。
「怖がらなくて良いよ。大丈夫だから。」
相手の頬に両手を添えて、獣の様に狂っていたその双眸を見据えていると変化があった。
「あぁ…ぁ…。」
嗚咽を漏らし、眼は濡れ、先程までの表情(かお)は鳴りを潜めていた。
震える手に力は抜け落ち、暴れる様子は見受けられない。
頬から首へとするすると手を伸ばして絡ませ、誠治の顔を胸元へ抱き寄せる。
「大丈夫、怖くないから。」
包み込んだ体は次第に震え、子供の様に泣きじゃくっていった。
片手で頭を撫であやし、気恥ずかしいけど落ち着くまでこのままで良いかな?と、この温もりに安堵していた。
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