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「ほっとけよ……」
拗ねたように、アイスコーヒーの氷をストローで掻き回す茶髪の少年。落ち込んでいるわけではなく、うんざりとした様子。おそらく彼にとっては言われ慣れている言葉なのだろう。
対して言霊夢はやや不満そうだった。テーブルに投げ出した脚を組み、上目遣い、
「むらー」
「ひょっとしてそれは不服の唸り声なのか……?」
「困るんだよねー。僕輩の相棒ともあろう者がまるで取り柄無しなんて。僕輩の価値すら総合的に下がるんじゃないかって危惧を覚えるくらいだよ。試験だって誰か一人が著しく低い点数をとったら、全体の平均値が下がるじゃない?それと同じだよ、分かるかな?」
「違うと思うし分からん」
「だからここでシンギングタイム」
メロンソーダをちゅー、と吸い上げて言霊夢。
「しーぼんにもっと個性を付けさせる為に僕輩が力を貸そう、ってそーいうわけさっ。此処に来てもらったのも、それについて話し合おうってね」
「あー、あー、そうかい」
面倒臭くなってきたのか、少年はアイスコーヒーの氷を更に掻き回────そうとして。
「……ん?」
ストローが無い。
おかしい。
さっきまでは確かに此処にあったのに。
落としたのかとテーブルの上や下を見てみるが、それらしきものは見当たらない。
「んー?どっしたの?しーぼん」
暢気そうな言霊夢の声。
「僕輩のスカートの中が気になるならそう言えばいいのに」
「スカートじゃないだろお前!」
「気になるのは否定しないんだ、えっへっへへー。見る?」
「見せるなっ!」
そういえば注文した飲み物が来た時、言霊夢はストローを使用していなかった。というより、今も未開封のストローが言霊夢の側にある。
だったら、である。
だったら、今言霊夢が口にくわえているストローは何なのか。
「……………」
いや、くわえているという表現には語弊があるかもしれない。先端が噛み潰されたようにひしゃげていたし、今でも感触を確かめるように、がりがりと歯と歯の間に挟んでいる。
「にやにや」
少年の舐めるような視線に気付き、擬音まで発しながら薄く笑う言霊夢。
考えるまでも無かった。
いつの間にかすめ取られたのだろう、と考えて少年はやわやわと首を振る。相手は言霊夢なのである。誰にも気付かれずにストローをくすねるぐらいの芸当、朝飯前どころか前日の夕飯だろう。
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