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「それは言い過ぎってもんだよ。過大評価は嬉しいけどね?」
言霊夢は勝手に「しーぼん」の考えを見透かしたように言う。
「僕輩(ぼくはい)だってできないことはできないさ。能力ってのはこう見えて、とっても不便なものなんだよ、くっははは。んんん?ああ、これね、これは返してあげるよ」
ほい、といとも無造作にストローを口で「しーぼん」のグラスに戻す言霊夢。
「…………」
歯形がくっきりと残り、言霊夢の唾液でべとべとになったそれを形容しがたい目で見てから、「しーぼん」は深い溜め息をついた。
言霊夢(コトム)自身やその言動に対して何か意見することを放棄したようであり、それはそれで賢明な判断といえる。
「話を戻すよん」
テーブルの上に両脚を投げ出したその間で肘をつくという、体の柔軟さを披露しながら、言霊夢の金色の目がにやにやと「しーぼん」をとらえ、
「ねぇ?零黒 詞梦(ゼロコク シボウ)君。そんな取り柄と言えば名前が僕輩の名前と同じ意味を持つくらいしか取り柄の無いしーぼんが個性を持つにはさ、まず気持ちを吹っ切る必要があると思ってさ」
「ほう……具体的には?」
「鳩を肩にくくりつけて何かしゃべる度に頭をつつかれるくらいの芸当はしないと」
「鳩めちゃくちゃ嫌がってるじゃないかよ……」
離してやれよ、としーぼんこと詞梦。
「あとは自分の名前を語尾にして語尾キャラ統一。そうだね、しーぼんだと名前が「詞梦(シボウ)」だから「しぼ」を語尾にするのはどうかしぼ?」
「気持ちを吹っ切る以前に人間関係が振り切れそうだな!」
「そう?」
いい案だと思ったんだけどなー、と残念そうに言霊夢。
「んじゃー口癖が「それに関しては、ざまあ見ろとしか言いようが無いな」」
「嫌な人間なんだ……」
「決め台詞は「あいつ露骨に地味な嫌がらせしやがる」」
「かっこ悪ッ!」
むらー、と言霊夢は唸った。ストローの代わりにグラスの縁をがりがりと噛み出す。ふっくらと桃色をしたその唇の隙間からちらちら覗く鋭い犬歯に、詞梦はごくりと固唾を飲んだ。
……グラス、欠けたりしないだろうな。
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