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「仕方ないなー。パフォーマンスも駄目、語尾も駄目、あれも駄目これもそれも駄目と来たら、あとは変態路線しか残ってないよ?」
「どれだけのものを取り払ったらそれだけが残るんだ?」
「くっふふーん。さあしーぼん。遠慮しないで僕輩の足の前に跪いていいんだよ?まずは靴の上から舐めさせてあ、げ、る」
「一人でやってろ」
平らにへしゃげたストローを手でのけて、残りのアイスコーヒーを一息に飲み干し、詞梦は立ち上がった。
「わわわ、冷ったいなー。ちょっと待ってよ、しーぼん」
ぴょんっ、と椅子から飛び降りて言霊夢が後を追う。
とはいえ、言葉程の焦りはその表情には見受けられないが。
「何だよ。勘定はどうせ俺持ちなんだし、もういいだろ。お前のセクハラに付き合ってる程こっちもな、暇じゃないんだ」
「なぁにむきになってんのさ。怒ったの?」
喫茶店の外で詞梦のロングコートを捕まえ、その背中に顔を埋めながら言霊夢がくぐもった忍び笑いを漏らす。
「怒ってない」
「くっふふふ。個性が無いと言われたのがそんなにショックだったの?」
「別に。付き合いきれないと思っただけだ。それに、……お前と比べるなら誰もが無個性に等しいだろうしな」
腰に腕を回されて歩きづらかったのか、詞梦は立ち止まって言霊夢を見下ろす。詞梦も背が高いというわけではないが、元より小柄な言霊夢は彼より頭一つ分は低い。
「大体、街に出るのにその格好は無いだろ。詰所に置いてこいとは言わないが、せめて上に何か羽織ってこいよ。目立ってしょうがない」
「やーだよん。僕輩はこの格好が一番楽なんだよ。職権濫用だし、緊急時にも即対応できるし。しーぼんがなぜ嫌がるか理解に苦しむなー。そりゃデザインは少ーし古風だけどさ、そこがいいんじゃない?」
詞梦に抱きついたまま器用にも脚を宙でばたばたさせる言霊夢。驚く程の腕の筋力だが、その分全体重が詞梦(シボウ)にかかることになる。ふらついた体勢を立て直しながら彼は小さく息を吐き、
「……お前の所為で俺まで奇異の目で見られる」
「くっははは!諦めなよー!耐性スキルアップは大事だよ?」
「別にお前に対しての耐性が無くても俺は構わないがな」
「僕輩だけに限らないさ」
金の目をちらりと上げて言霊夢は笑う。
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