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斎藤の顔を見上げるハルと斎藤の視線がぶつかる。
「行け」
斎藤が小さい声で促すと、ハルがその場を去ろうと駆け出す。だが
「斎藤・・・さま・・・。ちょっと、あなた!」
声の主がハルを呼び止める。背を向けたまま立ち止まるハルに
「あなた、新選組の女中なんですってね」
と言いながらその声の主が近寄ってきた。そしてハルの前に立ちはだかると
「昨晩はどうも・・・。私、斎藤様の事を父上に話しましたの。父も斎藤様の事を大変気に入ってくれて・・・今日は縁談の話で参りましたのよ」
と不敵に笑った。ハルが苦笑いして斎藤を振り返ると、斎藤が近寄る。
「お楽殿・・・何度も申し上げたが「斎藤様・・・なぜそんなにこの女中にこだわるのですか。正直に申し上げて、私・・・負けている所が見当たらないのです」
斎藤を遮ると、お楽が斎藤に首を傾げて見上げた。
「ま・・・負けてる所が見当たらないって」
ハルが口を尖らせてお楽を見ると
「だってそうでしょ?顔も家柄も・・・着ている物だって」
とお楽がハルの質素な着物の袖を指で摘んだ。
「お楽殿。私はこいつの内面に惚れたのだ。そういう「誰に・・・惚れた・・・ですって」
斎藤の声を遮り、低い声と共に殺気が漂う。はっと声のするほうを向くと、目を細めて斎藤を睨む総司が立っていた。
「そ、総司!」
「沖田!」
ハルと斎藤の声が重なると、ますます総司が目を細め
「随分と・・・息も合ってるんですねぇ」
と二人を交互に見つめた。
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