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忘れかけた名を呼ばれた気がし、一瞬、目を開けます。
目の前に広がる遥かは、昨日となんら変わりません。
「ついに幻でも会いにきたか。」
『それでも、愛しい。』
娘を想い、若者の口は笑みの形を作ります。
また目を閉じようとした時、
「酷いわ。わたしを、幻なんて確かじゃない物に、変えてしまうの?」
声に、閉じかけた瞼が見開く。
見飽きた遥かが、色を覚えたように見えました。
が、それもすぐに滲みぼやけます。
ゆっくりと振り向く声の先には、
「少し、遅れたかな…?」
「あぁ、少し、な。」
「なに、ずっと寝ていたからあっという間だったさ。」
痩せこけ、疲れた顔で美しく笑う娘がいました。
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