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「バカ言ってんな。俺の可愛い娘が似合わないわけねぇよ」
それはどういう持論なんだろうか。ある意味すごい。さすが父さんだ。
「そうだね、似合うよ。夢ちゃんは可愛いもん」
櫛を置いてリングゴムを手に取る。
可愛い可愛いと連呼される身にもなってほしい。恥ずかしいからやめてくれないかな。
「かっ、可愛くないよ!」
そっぽを向きたいが髪を結われている為にできない。替わりに唇を噛む。
「はい、できた。大紀はこれに合わせてね」
「あいさー」
父さんもゴムを手に取って縛り始める。不器用なくせに、見本があればできるようにはなったから進歩している。
今日の髪型はツーテール。というか、何時もツーテールな訳で。髪の量が多いので、ポニーテールは難だ。選択は自然とツーテールしかなくなる。
「できた。今日も上手くいったぞ」
ガッツポーズをする父さんを尻目に、櫛と余ったリングゴムを片付ける斎さんを見据えた。本当に送られるのか……。いや、無理矢理にでも送る気だろうけどね。
「僕の顔になにか付いてる?」
視線に気付いたであろう斎さんは、首を傾げて言った。付いていたら『〇〇が付いてるよ』とちゃんと言うからね。
「付いてない」
ふるふると首を振り、急いで立ち上がった。そうしてリビングを突き進み、自室のドアを開ける。わたしの自室はリビングの奥にあり、そこを通らなければならない作りになっていた。実に厄介だ。しかも扉ではないので鍵はついておらず、替わりに取り外し可能なスライドする板で区切られている訳だ。――それでも開ける時にはノックをしてくれるけど。
部屋に入り、隅の学習机のイスに置かれたカバンを手に取る。うちの学校はスクールバックだろうがショルダーバッグだろうが昔懐かしい手提げカバンだろうが、教科書とノートと筆記具が入れられるならなんでもいいらしい。ついでに、わたしはあるブランドモノのショルダーバッグである。カバンの隅にはワンポイントでブランドのロゴマークがいれられていた。
「どうしようか……」
ショルダーバッグを肩に掛けて、ため息を吐く。その中には財布と携帯、それに課題の教科書とノート、筆記具しか入っていない。体育がある日はそれ等の他にジャージが入るけど。他の教科の教科書とノートは学校のロッカーに積まれている。所謂、置き勉ってやつだったり。
「困るんだよなぁ」
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