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「私、あなたのことが好きになっちゃったの」
ほのかに頬を紅潮させてそう僕に告げる彼女はとても、とても綺麗だった。
両手でスカートの端をつまみ、ひどく緊張した様子で僕の答えを待っている。
(ど、どうしよう)
一方僕は生まれてから一度も経験したことのない桃色の緊張感に目眩を覚えていた。
好き、というのは付き合って、という意味だろうか。
という意味に違いない。
「あの、どうして、僕なの?」
疑問だった。何故なら、目の前で赤くなっている彼女と僕は何の面識もないのだから。
それとも僕が覚えていないだけなのだろうか。
「え、えーっとね、そ、その……」
言い淀む。恥ずかしそうに俯いて。
「ヒ・ト・メ・ボ・レ」
「……はあ」
僕はこの時点で酷く胡散臭いにおいを感じていた。
だって、ヒトメボレって一目惚れだろ?
有り得ないだろ。
きっとあれだ、高いツボ買わされたり、連帯保証人にされたりするんだ。
「ところで、君今すっごく超能力に興味ない?」
「ち、超能力?」
脈絡のないそのセリフに、僕は思わずオウム返し。
「ほう、その反応は間違いなく興味ある面だね? 専攻はESP? PK? あとで入部申請書に書いて貰うからね」
「入部申請……」
雲行きが怪しくなってきた。先刻まで場を支配していたはずの桃色の空気は見る影もなく、不穏な鈍色の空気が場に漂い始めていた。
「なんと、偶然ねっ。超能力好きの君に一目惚れした私は、実は超能力研究部の部長なのでした!」
いつの間にか超能力好きにされた僕は呆然と部長を名乗る少女の前で立ち尽くす。彼女はしたり顔でにやりと三日月を口に浮かばせる。
「これも運命! さあ私と一緒に人間の潜在的な能力を開花させ――」
「知るか馬鹿ちくしょう!!」
告白を隠れ蓑にした入部勧誘が本筋でした。しかも明らかに陰気な気配を漂わせた、胡散臭いさで反吐が出るような。本気でドキドキしたのになんだこの結末は!
僕の純情を弄びやがって。
僕は踵を返し、この不愉快なフィールドから抜け出した。
クソッ! ホントに悔しい。 こんな勧誘の仕方があり得るか? 僕じゃなけりゃ確実に堕ちてるじゃないか。なんて見境のない女だ。
新入生を《勧誘》という名目で狩りに来る悪魔だ。
ふと脇目を見ると、その悪魔は僕を追っていた。
「待てーっ! 待たないと頭ふっ飛ばすぞ!!」
僕は学校での新しい生活に一抹の不安を覚えていた。
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