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そして、その不安は当たり前のように現実のものとなった。
明くる日から、どうやって僕のクラスを突き止めたのか知らないが、その超能力研究部部長を名乗る上級生は毎日のように僕の元へ押しかけた。
君には才があるだの、なんだの。
斯くして、トチ狂ったアホ上級生に僕の平穏に成り得たはずの高校生活は打ち崩されたのだった。
「で、なんなんですか?結局わかんなかったんですけど」
不満気に唇を尖らせて、異国の人形を思わせるような金髪碧眼の少女は悪態をつく。
「私が訊いてるのは部長が先輩に入れ込んでる理由ですよ。今の話じゃさっぱりですよ」
「僕だってわかんねーよ。気づいたら入部させられてて、一年も連んじゃってた」
何となく一緒にいる変人。それが僕の持つ彼女への感想。超能力研究部部長、師之崎 京那に当てたものだった。
現実、放課後。三年生である彼女は放課後補習とやらでまだ身動きが出来ない状態にある。
この生意気な後輩は僕と部長がただならぬ関係だと疑っている。
問い質すにはちょうど良いタイミングだと思ったのだろう。
「で、チューぐらいはしたんですよね?」
身を乗り出し、目を嫌な細さに絞って後輩は訊く。
「あのな田中塚、僕は別に部長と付き合ってるわけじゃないんだぞ?」
田中塚 アイリス。この女は妙な勘違いをしている。
僕と部長が恋仲だ、と。的外れもいいとこだ。
僕の言葉など耳にも入れず、田中塚はいやらしい笑みで無意味な追求を続ける。
「だって部長、見た目はすっごくかわいいじゃないですか? あんな美人と四六時中ずっといてムラムラ来ない男はいませんよ。一年何もなかった? 私に言わせればそんな妄言、信じるアホはいません」
金髪を尊大に揺らして鼻を鳴らす彼女は、なるほど偏見で目の前が見えなくなってるらしかった。
夕日で幻想色に金髪が輝く。
「お前、僕みたいな臆病者が、部長をどうにか出来ると思ってるのか? 僕はエロ本だって買えない男だぞ?」
「あれ、でもこの前先輩ん家遊び行ったとき、普通にエロ本、どころかやらしいビデオとか散らかってませんでした」
「あ――ありゃ兄貴のだって言っただろ?」
「へーお兄さんいたんですね。今度紹介してくださいよ」
田中塚は感情の籠もらない口調でそう言って、僕の足を小突いた。
ああ、ひどい嘘をついてしまった。架空兄貴助けて。
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