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「しかし先輩、そんな風に好きだなんて言葉を簡単に出しちゃいけませんよ。火のないところは燃えません」
「火のないところに煙は立たない、な」
言わんとしてることはわかる。遠回りにこいつは僕と先輩の距離が近すぎると言いたいのだ。
何で年下の女子に僕は説教されているのだろうか。
「さて、今日はもう帰ります? 部長はたぶんもう来ませんよ」
「何でだ?」
田中塚は校門の方を顎でしゃくった。
先にはおおわらわで走る見覚えのある後ろ姿があった。
「待てェェェェェ師之崎ィィィィィ!!!」
「待つわけないだろうがー! 先生コワイヨー」
鬼の数学教師石鹿に追われる低身長の女生徒は我らが部長、師之崎 京那だった。
また補習から逃げ出したらしい。僕ら二人は呆れて顔を見合わせた。
「ね? 今日は帰りましょう。たぶんまたゲーセンにいると思いますからそこで部長と合流です」
我が部にはあと二人部員がいるが、この時間まで来ないということはもう今日は欠席なのだろう。
だいたい活動内容なんて無意味な論争とネットサーフィンだけだし。
「はあ……。わかったよ。そこに鬼の石鹿もいたら笑えるよな」
「笑えますけど、わたしらも補習の巻き添えくらうかもしれませんね」
うちの高校の校則で《寄り道でゲーセンに立ち寄ってはいけません》というものがある。
見つかれば学年観察くらいの処置は施されるかもしれない。
「じゃ、奴もいたら二人で遊ぶか」
「はい。部長はほっといて遊びましょう。たまには二人っきりというのもいいですよね」
田中塚はそう答えてから荷物をまとめ始めた。
誤解を招くようなことを言うんじゃねぇよ。
これが僕らの放課後。
僕の日常だ。
当たり前だが僕は満足していた。
今日までは、これで十分だった。
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