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結局部長とは合流出来ず(ゲーセンにすらいなかった。どうやら捕まったらしい南無南無)田中塚と二人っきりでいつものようにぶらぶら過ごした。
生産性のない時間だが、まあ僕には必要な時間だ。
とにかく、事はその田中塚と別れたあとの帰路で起こった。
薄いオレンジの日を浴びながら、部長とのこれからの距離感についてさめざめと思いを馳せる僕の前にそれは現れた。
現れた、というか僕の自宅前でそれは転がっていた。
黒い布の塊。
それが人であることに気づくのに体感で十秒程要した。
僕が考えごとをしていた、というのも遅延の理由にあるが、その布の塊はあまりにも生気を感じられなかったのだ。
率直に人間だと思わなかった。物だと思った。
「……なにこれ」
小さく揺れて呼吸している。
布からはみ出た栗色の髪は、夕日と見紛うほど綺麗だった。
陶器のような手足は細く、全体的に虚弱な印象を受ける。
彼女が弱っていることは火を見るより明らかだった。
「お、おい。大丈夫か?」
大丈夫じゃなかったらこんなところで倒れてないよね。
このまま外に寝かせとくのはマズい。
とりあえず部屋で寝かせてあげよう。僕はこの布にくるまった女の子をおぶって戸を開けた。
「佐凪、おじいちゃん……」
彼女の口から僕の祖父の名前がこぼれた。
寝言だろうか。どちらにしても、僕がこの少女を放り出すのは本格的に無理になったわけだ。
じいちゃんの知り合いなら助けないわけにはいかない。
少女の体温を背中に感じながら思った。
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