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「う、うう」
布切れの少女は布団の上に横にしてからもうなされ続けている。
おそらく僕より1歳か2歳年下の、幼い造形をした名も知らぬ少女。
「参ったな……」
正直、すごく僕は困っている。
警察に届けるべきか、医者に見せるべきか。
僕の本能はこの少女を追い出せと言っているがそんな非道いことは出来ないし。
「う……」
恐怖に顔を歪ませながら彼女は眠る。熱でもあるのだろうか。
僕はおもむろに彼女の額に手のひらをあてがおうとした。
瞬間、顎が吹っ飛んだ。
違う、顎が吹っ飛んだのかと思った。
「がっ」
掌底。舌を噛まなかったのは運が良かった。僕の頭部は激しく上下運動した。意識も揺れる。
遅れ来る鈍い痛みが『攻撃されたぞ!』と僕に警戒を促した。
「こ、来ないでよ! 今、あたしに何をしようとしたの!?」
いつの間にか目を覚ました少女はどうやら勘違いしているらしく、肩を抱いて震えながら栗色の髪の毛を逆立たせていた。
「ぐ、ぐ。いてぇ……。いやさ、熱があるのかと思って」
「嘘よウソ、ウソ。お前、あたしをどうにかするつもりだったんでしょ」
「しないよ!」
「近づくな」
身を乗り出して反論する僕を、この女は思い切り蹴っ飛ばした。どうでもいいがいい蹴りだった。
「いってぇな! 誤解だってば」
「そんなの信用できないわ。お前、目が死んでるもの」
「もともとこういう目なんだよ!」
それ以上僕の目のことを悪く言うんなら本気で泣くぞ? コンプレックスなんだぞ。既にメンタルがボロボロだ。
「だいたい僕が介抱しなきゃ、君死んでたよ?」
少々大げさにそう言ってやると、少女はますます震えた。
「まずお前みたいなレイプ目男に介抱されたという事実に、あたしは羞恥のあまり悶死しそうだわ。ああ恥ずかしい。恥ずかしいからあたしはこの件についてもう忘れることにする」
はい忘れた、と彼女は宣言し手を叩いた。
僕の尊厳はそこに存在しなかった。
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