一章【平穏な朝】

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カティアたちが宿泊しているリオネという街から南へ数キロほど離れたところに『忘却の森』と呼ばれる場所がある。 ここは背の高い木々が生い茂るとても広大な森であり、日中でもあまり陽の光が届かず、常に薄暗く気味の悪い雰囲気が漂っている。 そのうえ、森の中ではときおり霧が発生して方向を見失う危険があるため、よほどのことがない限り立ち入ろうとする者はいなかった。 その一方で、森の内部には綺麗な水の流れる川があったり、豊富な種類の動植物が繁栄しているため魔物が棲み着くのにうってつけの場所となっている。 そのため、森の中には多種多様な魔物が生息しており、人々が恐れる危険な場所である反面、エレメント採集を生業としている者たちにとっては格好の狩り場となっていた。 「━━あれ、森に行く道ってここだっけ?」 道が東に大きくカーブしている場所までやって来ると、ふいにルキノが足を止める。 「え? まさか、ルキノさん道を忘れたのか?」 アルクが少し慌てた様子で問いかけると、彼女はすぐに悪戯っぽく笑みを浮かべた。 「あははっ、冗談だって。大丈夫、こっちの道で合ってるよ♪」 笑いながらルキノはそう言うと、街道から逸れるように伸びた脇道へと入っていく。 「はぁ、まったく……」 アルクはため息混じりにそう言って首を振ると、すぐに彼女の後を追って歩き出し、カティアも苦笑しながらそれに続いた。 人の通った痕跡がほとんどない狭い道をしばらく進んでいくと、やがて三人は森の入り口に辿り着く。 ここは少し開けた空間となっており、魔物の生息域であることを警告する立て札が設置されていた。
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