序章【悲劇の夜】

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今から数年前、「その惨劇」はオルキア大陸の南部、ミラン王国領内のとある小さな村を突如として襲った。 人々が寝静まった真夜中、少女は家の外から聞こえてきた凄まじい悲鳴によって目を覚ます。 ベッドで一緒に寝ていた母親はただ事ではないと感じ、顔色を変え少女をギュッと抱きしめる。 父親は険しい表情で猟銃を手にすると、家の中に隠れているように二人に言い付けて外の様子を見に行った。 その後も外からは人々の悲痛な叫び声や、獣のような唸り声が絶え間なく響いてくる。 (怖い……) 少女は母親の腕の中で震えていた。 その後、しばらく経っても戻らない父親の身を案じながら少女と母親は息を潜め、ひたすら恐怖に耐えていた。 永遠とも思える時間の中、突然家の扉が乱暴に開かれ、体を引きずるようにして父親が中に入ってくる。 扉から差し込む月明かりに照らされた彼の全身は血で真っ赤に染まり━━右腕が無くなっていた。そんな瀕死の状態の彼は力を振り絞り最愛の家族に向かって必死に叫ぶ。 「魔物だ! 今すぐ逃げろ!」 次の瞬間、父親の背後から銀色の尖った毛に覆われた虎のような姿をした魔物が唸り声を上げ家の中へと飛び込んできた。 魔物は荒い息を吐き、涎を垂らしながら邪悪な深紅の目で部屋の中を一瞥する。
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